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事業拡張に必ず必要な視点「ブランド拡張」
前回はブランドポートフォリオ・マネジメントについて解説してきました。今回は、それと密接な関係性をもつブランド拡張についてお話したいと思います。
ブランド拡張とは、あなたの事業において、すでに認知度のある既存ブランド活用して新たなブランドの展開を試みるための手段です。強いブランドを皮切りに次なるブランドを仕掛けていくのは、事業発展において非常に経済的な選択と言えます。ブランド拡張が効果的に機能すれば、強いブランドをさらに強化することができるというシナジーを生み出すことにも繋がります。
ブランド論の権威であるジャン=ノエル・カプフェレの調査によると、ゼロから新ブランドを立ち上げることとブランド拡張させ新商品を展開することとどちらが事業として生存したかというと、ご想像頂いたとおり後者でした。前者は生存率30%、後者は50%だったそうです。そして、同じ調査において、ゼロからの新事業とブランド拡張させた新商品とでは、トライアルの購入率は23%、リピート率は61%高まったという結果が報告されました。
当然といえば、当然です。人々は、知られていないブランドには、何の感情も持つことはありません。すでに感情移入しているブランドが、そのブランド名を冠して新しい新商品を展開しているのであれば、好意的な印象を持っている人は関心を持つことが容易に想像できるのではないでしょうか。
ブランド拡張とは
あなたは、トヨタが発売しているヨーグルトをご存知ですか?
当然そのようなものは存在しないので、誰も知るはずはありません。しかし、どうでしょうか、本当にトヨタがヨーグルトを販売したとすれば、違和感を感じませんか?何かしっくりこないと感じると思います。これがブランド拡張がうまく行っていないという状況になります。
現在、国内においてはモノが溢れ、市場は成熟しています。そのような中で企業は新しい商品を提案し続けなければなりません。すでに申したとおり、市場が成熟している現代において、新商品を出すことが必ずしもうまくいかない状況において、それでも確率を高めていくために取り組むことが、この項でのブランド拡張と言えます。
新ブランドが世に出て生存することよりもいつの間にか消えてしまうブランドのほうが明らかに多いでしょう。それも多くが1年以内に消えてしまいます。今回は、ブランド拡張とは何か、だけではなく、ブランド拡張の成功例と失敗例についてもお伝えしてき、ブランド拡張を成功させるための切り口を共有していきます。
ブランド拡張の検証
ブランド拡張を実行に移す前に行うべきことは、それが正しい判断かどうかの検証です。新しいブランドを立ち上げるためには、多大な投資と時間、管理体制などが必要になりますが、既存ブランドを活用することでこれらの負担は軽減できます。そのため、ブランド拡張は新規ブランド立ち上げよりも頻繁に行われています。
しかし、ブランド拡張が失敗に終わってしまうと、新ブランドの販売が進まないだけではなく、既存ブランドの価値を下げることにも繋がりかねません。ブランド拡張を行うかどうかの判断には以下を参考にしていただきたいと思います。
・既存ブランドのブランド連想は、新ブランドのカテゴリーに対して好意的な印象を与えることができるでしょうか。ブランド名を使用することで差別化や優位性をもたらすことができるでしょうか。
・新ブランドのカテゴリーへのブランド拡張は既存ブランドとのカニバリを起こさないでしょうか。また、ほかブランドのブランド拡張機会に対して弊害はないでしょうか。
これらはブランド拡張と表裏一体の課題と言えます。ブランド拡張時にはぜひ心に留めておいていただきたいと思います。
ブランド拡張のパターン例
同製品の異形態への拡張
同じ商品の形態を変更して、商品ブランドを展開するということですが、例えてあげるとチキンラーメン。もともとチキンラーメンは袋に入った麺でしたが、それをカップに入れて、後はお湯を注ぐだけという形状にしました。オフィスで働く方や学生など、丼を準備できない環境においてもコンビニなどでお湯を注ぐだけで食べることができるというニーズに応えることが出来ました。そして、サイズも1人前だけでなく、小ぶりなカップ麺なども登場し顧客の要望を満たす商品ラインナップとなっていきました。
独自の風味・原料・成分を利用した拡張
あなたはエビアンの化粧水をご存知でしょうか?スプレーの中身はエビアンです。入れ物が違って用途が変わるだけで1,150円/150gという高額な商品に変身してしまいました。エビアンのフェイシャルスプレーはカルシウムイオンなどを豊富に含んでいて、化粧水の浸透を保管してくれるのだそうです。導入化粧水というカテゴリーでとても売れているということです。エビアンがこのようなブランド拡張するということは、水に対して相当な自信の表れであることも十分に伝わってきますね。
利用シーン、カテゴリーを軸とした拡張
ナイキは誰もがご存知のブランドだと思います。創業当初は、日本のブランドをアメリカで販売する代理店だったところから、スポーツシューズのトップブランドとなりました。そのナイキがシューズから、スポーツウェアやバッグなどのアクセサリーにも拡張をしているのは、すでに周知のとおりです。あらゆるメジャースポーツのシューズやウェアへと展開し、大成功を収めています。
同一顧客をターゲットとした拡張
これはいわゆるアップセルやクロスセルというものと言えると思いますが、アップルやソニー、パナソニックなどの家電メーカーは自社のサービスの中で顧客の購買を完結させるまでの包囲網を作っています。
アップルは、MacとiPhone, iTunes, アップルウォッチなど一人の顧客へ様々な商品を提案しています。確かにこれは、最も効率のいいビジネスだと言えます。もっとも買ってもらいやすいファンに次の商品を提案すれば、クロージング率は自ずと高まります。新規顧客獲得のためのコストも必要なくなりますから、一般的には利益率も上がると予想できます。
専門技術・知識を転用した拡張
あなたは京セラのクレサンベールというものをご存知でしょうか。私は盛和塾に入会させていただいていたことで知るきっかけがあったのですが、ファインセラミックス加工の技術を用いて、宝石の原鉱石を再結晶させるというものです。宝石店の知人に商品を見せていただきましたが、天然だとどうしても発生してしまう宝石内部に傷があったりしますが、クレサンベールは非常に美しい仕上がりとなっています。
このように独自の技術を活用して、新しいブランドへと拡張していくということはどのような業種においても実現できるブランド拡張と言えます。
便益・属性・特徴を活かした拡張
TBCといえば、脱毛やエステのブランドです。そのTBCがサプリメントドリンクを提供しています。TBCの事業は、女性や男性の美しさを高めることに関係しています。コンビニやスーパーには、多くのスムージーやフルーツドリンクが陳列されていますが、そのような市場にTBCが参入したことは、まさにブランドを効果的に展開していると言えます。
吉野家でライザップ牛サラダが展開されていることも、糖質制限をさせることで牛丼を体にいいものにイメージ転換させることに成功しています。改めて、事業ドメインを考えてみると、便益や属性、特徴を生かして拡張することは非常に優れたアプローチであると言えます。
人名・ブランド名を基軸に拡張
トラヤカフェは、皆さんご存知の「とらや」が作ったカフェです。自由で新しいお菓子の世界の提案をコンセプトに「とらや」のあんを使った、とらやがもっと身近に感じられるお店です。とらやファンからすれば、高品質のブランド体験が期待できるものとして一度行ってみたいと思うことでしょう。
このようにブランド名を冠として拡張する事例は数多存在します。また有名シェフ監修の料理などは、色々な結婚式場が取り入れている戦略の一つです。シェフのブランド力を活用して企業の魅力を高めることは常套手段と言えます。
ブランド拡張のメリットとデメリット
ブランド拡張のメリット
ブランド拡張のメリット:プロモーションコストの効率化
ブランド拡張は、既存のマスターブランドがある程度の知名度があることが前提となっているため、拡張ブランドにおいての認知度向上のコストが抑えられることが魅力です。プロモーションコストだけではなく、パッケージやディスプレイ、プレゼンテーション資料などの作成に至るまで、あらゆる場面でコストが抑えられます。
ブランド拡張のメリット:顧客の知覚リスクの削減とトライアル率の向上
すでにあなたが保有しているブランドが知名度高く信頼性の高いものであれば、顧客は十分なブランド連想を持っています。そのためブランドに対しての期待感を抱いてもらいやすく、トライアル購入に対する心理的なリスクは低減します。
ブランド拡張のメリット:顧客層の拡大
基軸となるブランド、マスターブランドでは満たすことができなかった顧客ニーズを新ブランドが満たすことができるのであれば、それはつまり市場の拡大を意味します。どんなビジネスにおいても、商品・サービスブランドの拡張は前提として顧客のニーズを満たすものでなければならないため、結果としてあなたのブランドを体験する層の拡大につながります。
ブランド拡張のメリット:マスターブランドの再活性化
拡張したサブブランドが、基軸となるマスターブランドのブランド連想を強化したり、新たなブランド連想が付け加えられたりすることがあります。ブランド連想が強化されることによって、リブランディングになるケースも想定できます。
ブランド拡張のデメリット
ブランド拡張のデメリット:ブランド連想がぼやけてしまう/希薄化する
もし拡張ブランドがマスターブランドとの一貫性を保てなくなってしまうと、マスターブランドはもともと持っていたブランド連想がぼやけてしまい、双方にダメージが生まれる可能性があります。以前、GUCCIがライセンス提供し、GAC(GUCCI Accessories Collection)商品の販売により、大量に商品が出回りブランドの管理ができなくなってしまいました。その結果、ライターや灰皿、ペンなどにGUCCIブランドが使用され、マスターブランドの価値が下がってしまったということがあります。
ブランド拡張のデメリット:ブランドの毀損リスクが拡張ブランドに影響する
マスターブランドがポジティブなブランド連想であるならば該当はしませんが、もし従業員や取引先の不正や不祥事などでマスターブランドが毀損してしまうと、拡張ブランドにも影響を与えてしまいます。大きな事例であれば、日産の元社長ゴーン氏に関わる一連の不祥事と海外逃亡が上げられます。6700億円を超える大赤字になったことは記憶に新しく、多くの拡張ブランドにもネガティブなブランド連想をもたせてしまいました。
ブランド拡張のデメリット:拡張ブランドによりカニバリを起こしてしまう
ブランド拡張という選択をする場合、多くの方が相乗効果を期待します。しかし、十分な戦略を持たない場合はお互いのブランド同士が顧客を奪い合う状態、つまりカニバリが起こってしまいます。その結果、思ったほどにブランドのセールスが向上しないという結果になります。ブランド拡張は、マスターブランドの連想を活用して「類似性」を活かすという一面と、拡張ブランドにより新たな顧客層を獲得する「差異性」を活かすという一面の両方を意識しなければなりません。
ブランド拡張成功のために
ブランド拡張においては、ブランドの属性(事実や実体)が、顧客ターゲットのどのような価値観に繋がり評価されて購買に結びついたのかを理解しなければなりません。商品属性から機能的ベネフィット、情緒的ベネフィット、コンセプトを明確に分けて考えることで、ブランド拡張にあたり留意すべき「類似性」と「差異性」が見えてきます。
類似性に必要なことはコンセプトです。ここでのコンセプトとは、ブランドの中核概念やブランドプロミス、ミッション、ビジョン、バリュー、理念などを指します。差異性とは、ブランドの属性(事実や実体)といえます。ブランドの属性が価値と変わったものとして、顧客は機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットを得ることができます。ところが、顧客ターゲットと上記2つのベネフィットが、マスターブランドや既存ブランドとのそれらと明確な差異性が生み出せないときにカニバリを起こしてしまうケースがあるように思います。
ブランド拡張の失敗例
あなたは先に触れたトヨタブランドのヨーグルトと聞いて簡単にイメージできなかったと思います。
・ユニクロと野菜事業
・ハーレーダビッドソンの香水
・サムソナイトのアウター
・ドクターペッパーのマリネ
・ZIPPOライターの香水
上記のように、ブランドの認知度や信頼性がブランド連想や提供価値と一貫性がなければ、ブランド拡張が成功するということはできません。ブランド拡張を成功させるためには、何をぶらさずに、ブランドの何を拡張させるかを考えることが最も大事なことになります。
ブランド拡張を成功させるための確認事項
ここからはブランド拡張において、どの点に留意しながら進めていくべきかをお知らせしたいと思います。
・マスターブランドのコンセプトは、ターゲット顧客に浸透しているか。
・マスターブランドのコンセプトは、強く表現できているか。
・マスターブランドのコンセプトは、どのような顧客から愛されているか。
・拡張ブランドは、マスターブランドのブランド連想に貢献するか。
・拡張ブランドは、十分な事業性と競争力を備えているか。
・マスターブランドと拡張ブランドはカニバリを起こす可能性はないか。
・マスターブランドと拡張ブランドがカニバリを起こしたときに最悪のケースを想定できているか?
いかがでしょうか。あなたがもしブランド拡張において積極的に検討しているのであれば、ぜひ上記内容を改めて検討していただきたいと思います。そして先行きの見えない現代において、果敢に挑戦していくブランドをぜひ目指してください。