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新規事業に欠かせないアンゾフの成長マトリックス
アンゾフの成長マトリックスとは
アンゾフの成長マトリックスとは、イゴール・アンゾフ(1918-2002)氏によって提唱された、事業の成長・拡大を図る際に用いられるマトリックスです。事業を「製品」と「市場」の2軸で捉え、そしてその2軸をさらに「既存」と「新規」に分けて表した企業の成長戦略を4つの窓で表現しています。このマトリックスは、企業が既存の商品を今の市場で更に事業拡大を目指すべきか、新しい市場に参入すべきかなど、成長戦略の方向性を探る際に客観的に検討することができるものです。
アンゾフは「競争優位の戦略」の著者であるマイケル・ポーター氏や「コア・コンピタンス経営」の著者であるゲイリー・ハメル氏にも大きな影響を与えており、マトリックスは現市場で商品販売を強化する「市場浸透」、新市場で既存商品販売を行う「市場開拓」、新商品を既存市場で販売する「製品開発」、そして新商品をまったく新たな市場で販売する「多角化」の4つの窓に分けることができます。
4つの成長
市場浸透:既存の市場×既存の製品
市場開拓:新規の市場×既存の製品
製品開発:既存の市場×新規の製品
多角化:新規の市場×新規の製品
効率的な事業成長は、市場浸透戦略です。しかし、競合他社も存在することで利益が生み出しにくい環境であったりもするでしょう。そこで既存製品を新しい市場に横展開できないかと考え始めるわけです。市場開拓により自社が効率的に他の市場で成長の機会を生み出せないだろうかと。また、ある商品を開発してきたが、その原材料を生産しようと考えるのは製品開発といえるでしょう。焼肉屋が畜産業に参入するなどはその好事例といえます。多角化は弊社のようなブランディング会社が飲食店を経営するということはまさに多角化と言えます。仕入れや料理のことは全く経験がないために新たな市場で新たな製品での商売となるわけです。事業を行っていく上で、どう事業を拡大していくかは常に考えていかなければならないのですが、このようにアンゾフの成長マトリックスは頭の中を整理するのにたいへん役に立つものです。さらに一つ一つ具体的に見ていきましょう。
1、市場浸透(既存市場→既存製品)
既存市場に対して既存製品と取り組む戦略です。すでに存在する市場において、消費者の購入意欲を高めるために、プロモーションを行いCRMを活用して顧客のマネジメントを行いながら、関係性を強化しファンになってもらうことで何度も購入していただきます。既にブランドとして成長している場合は、市場浸透戦略を通じて、〇〇といえば□□社と消費者に想起してもらいます。
2、市場開拓(新市場→既存製品)
こちらは新規市場に対して、既存製品を売り込んで、新たなマーケットシャアを作る戦略です。すでに市場は存在しているので、あなたの会社にとって新規市場ということになります。海外市場などはわかりやすいかもしれませんし、東京進出というパターンも地方から参入する場合は同様のことがいえます。例えば、ある成功した製品を新市場に展開する際には、市場を開拓できる販売網の構築が必要になります。ゼロから事業を新市場で立ち上げることはかなりの労力がかかりますし、すぐにブランドを構築できるかはわかりませんので、パートナーシップを活用したりと工夫が必要です。
私もニューヨークに進出した際、まだまだ未熟だったこともあって、市場のリサーチにもっと時間を掛けるべきであったと思っています。新たな市場には勇気もエネルギーも必要とします。不確定要素や課題設定に労力を使うことが何より大事なことです。
3、製品開発(既存市場→新製品)
既存の市場に対して、新規製品を展開する戦略になります。市場はすでに存在しているため、あなたは後発となります。後発で既存市場で参入して勝負するには、あなたがどれだけ他の会社と差別化を明確にできるかにかかっています。差別化したものを、さらにターゲット顧客に情報として理解させることが一つの課題になるでしょう。
国の方針が変わり電力の自由化が進む中で、新電力会社と言われる方々が参入していますが、もともと太陽光発電の設置会社が既存市場に参入した場合などが該当します。既存製品と比べて、明確な差別化が要求されますが、新電力は価格という目に見えてわかりやすい差別化ができるのは比較的取り組みやすい事例と言えます。
4、多角化(新市場→新製品)
新市場に対して新製品を投入します。類似業態に進出する水平的多角化や、流通段階の上流や下流に進出する垂直的多角化、そして全く新しい分野に進出するコングロマリット的多角化などがあります。携帯電話がなかった頃に、京セラやトヨタが参入を表明し、今では生活に欠かせない一大産業にまでなりました。
また日本の飲食店が、日本食文化のないところに日本食レストランで進出する事例などファーストペンギンはそれ相応の苦労を強いられます。リスクの高い展開を強いられますが、その投資に見合う効果を求めチャレンジを行うわけですが、相当の覚悟とリスクヘッジが必要になるでしょう。
アンゾフの成長マトリックスの事例
ここからはアンゾフの成長マトリックスの事例をそれぞれの分類ごとに考えてみましょう。
1、市場浸透の事例(既存製品→既存市場)
市場が成熟し、製品がコモディティ化されている場合が多く、市場を客観的に判断する必要があります。市場が縮小している場合と市場が拡大している場合では、拡大市場のうほうが事業展開は当然容易になるはずですが、多くの場合は、市場そのものはライフサイクルに伴い縮小傾向となります。ところが、縮小している市場でのビジネスは消耗戦になりやすいと判断できます。シェアをどれだけもっていて、効率よくマーケティングができているかによって収益性は変わってきます。
個人のライフスタイルは多様化し、テレビや新聞媒体だけの広告手法だけではターゲットに情報が届かない場合も多く、WEBやテクノロジーを駆使した販売戦略が重要視されてきています。中でもオンライン広告が全般的に投資効率が高いのは上記の根拠となっています。市場浸透において有効な常套手段が顧客管理(CRM:Customer Relationship Management)です。
昨今サブスクリプションサービスとしてさまざまなビジネスが展開されていますが、まさにこのCRMで顧客をマネジメントすることで収益化の最大化を行っています。サブスクリプションというサービスは新たな収益手法としてさらに発展する可能性はあるでしょう。オンライン映像プラットフォームのNetflixやアマゾンプライムも同様にサブスクリプションモデルを採用しています。また通販事業も同様の傾向があります。
どちらも一人あたりの収益や顧客獲得単価、そして顧客生涯価値などが試算しやすいため、事業の計画性が非常に用意になってきます。言い換えれば、どれくらいの予算を投下すれば、どれだけの収益が獲得できるという判断が非常に用意になり、積極的な投資を行え、結果的に市場の中で存在感を作り上げることができるということになります。これらのビジネス手法はさらに発展を遂げており、今後はAIや以下に続く他の戦略との掛け合わせができる企業が優位性を発揮することになると思います。
ただ一つ大切なことは、この市場浸透における成功体験を持たない会社が他の戦略で優位性を作り上げることは大変困難になるでしょう。それは、事業が浸透できず、ヒト・モノ・カネの資源を浪費したあとで他の戦略では同じ課題にぶつかるであろうからです。まずこの市場浸透の土俵において、勝率の高い勝負に出なければならないと考えます。小さな土俵かもしれませんが、確実に収益を上げて行くことをぜひ目指していただきたいと思います。
2、市場開拓の事例(既存製品→新市場)
既存製品における新規市場開拓として、海外市場への進出を事例として考えてみましょう。日本は輸出大国であり、トヨタなどの自動車メーカーの海外進出が広く知られています。日用品や飲料などの分野での海外進出も一部の企業において積極的に行われています。
ユニ・チャームは生理用品やおむつで知られていますすが、積極的な海外展開を行なわれています。私たちが知っているブランドとしては、ムーニー、ソフィ、オヤスミマン、マスクの超立体などが挙げられます。ドラッグストアに行くと必ず目にしますね。事業領域としては、ベビーケア分野、フェミニンケア分野、ヘルスケア分野、クリーン&フレッシュ分野、ペットケア分野となります。以前は中国などのアジアが中心でしたが、近年ではアジア以外にも領域を広げ、海外の売上は6割にもなるそうです。
1984年、台湾-大中華圏で現地法人を設立し、ユニ・チャームの海外展開はスタートしました。1990年代はアジアを中心に進出し、現在は海外現地法人35社を配し、東アジア・東南アジア・オセアニア・中東諸国、北アフリカなど世界80カ国以上で商品を展開しています。
日本で培った商品開発力やマーケティング力をもとに、国ごとに異なる生活スタイルや商習慣に合わせて展開し、海外事業の拡大を急進しているとのこと。中国市場を攻略しただけも本当にすごいことなのですが、今後少子化によって市場が縮小することを踏まえたのだと考えられますが、着実に市場開拓のノウハウを蓄積しているのではないでしょうか。
ユニチャームはこのように積極的な海外市場開拓を行なってきました。他社が外部環境の変化によって苦境であったときでも高い業績を維持し、企業としての成果を残し続けています。既存製品の商品力を武器に新市場の開拓に成功した例といえます。私も海外の生活は長かったのですが、日本の商品が世界で戦うことができる隙間のマーケットは大きく存在します。
米国においても、自動車だけではなく、日本食やカラオケなど文化を根付かせようとして勝負をしている方々はたくさんいらっしゃいます。日本はどんな経済環境の変化においても、輸出大国でなければなりません。今後ますます海外へ進出し、新市場で活躍する企業が出てきてほしいと思います。
3、製品開発の事例(新製品→既存市場)
既存市場で事業を成長させ続けるためには、多くの企業において新製品の開発と投入は必然であると思います。例えば、製薬業界においては企業は研究開発に資源を注ぎ、新薬の開発に積極的でありましたが、特許の切れた医薬品がジェネリックが既存市場に参入しています。また、ナショナルブランドとして、セブンイレブンのセブンプレミアムシリーズやイオンのトップバリュー、ローソンのおうちカフェなど流通業界においても変革が進んでいます。他にも無印良品がホテル業界へ参入したことは多くの方が驚かれたことと思います。そして、写真フイルム需要が減少することを予測していた富士フイルムは、フイルムで培った微細技術を化粧品などに活かして新たな事業として成長させています。
大切なことは、新製品開発は、単に既存製品の改良などの既存製品の延長を行うのではなく、プロダクトライフサイクルや業界の今後の流れを正しく予測していかなければなりません。新市場においても、既存市場においても常に変化を続けていますし、またプロダクトライフサイクルも絶えず変化しています。
プロダクトライフサイクル★★★★★★★★★★★
3C分析との併用もおすすめしますが、自社と競合と顧客の関係性を客観的に見通す力を持つこと、そして、自社の資源を形を変えて価値を生み出すことができないかを模索し続けなければなりません。
3C分析★★★★★★★★★★★
そうすると、自社の資源の強みを部署を超えて理解しておかなければなりませんし、社内に変化を生み出す空気感も必要になるでしょう。
4、多角化の事例(新製品→新市場)
多角化に関しては、様々なアプローチが存在します。
・類似業界に進出する水平型多角化
・流通の川上/川下に移動する垂直型多角化
・全く異なる事業を行うコングロマリット型多角化
水平的多角化としては、バイクを生産していた本田が自動車産業に進出した事例が挙げられます。垂直的多角化は、メーカーが卸や小売に進出したり、小売業が卸やメーカー分野に進出したりする例です。コングロマリット型多角化の例としては、トヨタ自動車が通信事業や金融・植林事業に進出することなどが挙げられます。
さて、皆さんはDMM.COMという企業をご存知ありますか?DMMグループは石川県加賀市においてビデオレンタル店を開店したのを契機に、アダルトビデオの販売、動画配信で急成長を遂げました。売上は2,211億円(2019年2月期)という立派な会社に成長しています。
こちら(https://www.dmm.com/)にアクセスしていただくとご覧いただけますが、多種多様なサービスを展開しており、意思決定が早く、新規事業に取り組んでは利益がでなければ、即撤退というダイナミックな経営をしています。事業別の売上の主力はインターネットを活用した動画・配信事業、オンラインゲーム事業、太陽光を中心としたエナジー事業となります。
それ以外にも、通販・レンタル事業、証券事業、インターネットを活用した英会話事業、モバイル事業、3D事業及びロボット事業などなど数多くの事業領域でサービスを拡充していています。参入を決めるポイントの一つは、世間の支持をちゃんと受けられるものであること。いくら儲かっても世間に支持されなければ長続きしない。もうひとつは「はやりもの」であること。(Special Interview DMMホールディングス 会長 亀山敬司「出た利益はすべて新規事業につぎ込む」 週刊東洋経済 2017/12/30号)だそうです。
新製品で新市場に参入するためには、リサーチも十分に必要だと思いますが、現代においてはスピード感が何より重要視されていなければならないのだと思います。業績という目に見える形で継続すべきかどうかの判断に迷いは必要としていないのでしょう。新規事業を成功させるには、安定した収益を稼ぐことのできる事業と新たな挑戦するマインドが前提条件の上で、調査、投資、実行、撤退のスピードを上げることなのだと思います。
アンゾフの成長マトリクスのまとめ
以前の私は、頭でアンゾフの成長マトリクスを理解していましたが、当時の意思決定が正しかったかどうかは、今思うと危うさを感じます。当時、ニューヨークに進出すること自体、現地のリサーチが足りていませんでしたし、商品そのものが通用すると高をくくっていました。
アンゾフの成長マトリクスでいえば、市場開拓(既存製品→新市場)にあたります。日本のマーケティングの経験を活かし、アメリカで事業の展開は比較的徐々に成長していました。ところが日本の本丸である会社の経営が揺らいできてしまったのです。そうなると、アメリカで勝負などは言ってられません。
日本への帰国を余儀なくされ、結果相当の経験を積むことはできたものの、海外への事業展開はそうやすやすといかないものだと身を持って経験しました。アンゾフの成長マトリクスをはじめ、他のフレームワークにも当てはまるかもしれませんが、フレームワークはあくまでも思考のフレームワークであり、実際の行動にしか本当の答えはありません。どうぞフレームワークを活用する際は見えるまで考え抜いて、経営に落とし込んでいただければと思います。